(旧)えいがのはなし

映画に対する感想を自由にまとめたものなのでネタバレを含むレビューがほとんどです。未見の方は注意してください!

貞子vs伽倻子/ 二大スター、夢対決!!

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「リング」の貞子と「呪怨」の伽倻子と俊雄は日本映画界でもトップクラスのスターだ。特に貞子はゼロ年代サブカルチャーのアイコンと言っても過言ではない。そんな彼らがまさかの共演を果たしたのが本作「貞子vs伽倻子」である。ことしはDCとマーベルがそれぞれ二大ヒーローを対決させるクロスオーバー作品を後悔したが、その流れに乗るかのようなタイミングでの公開となった。どう考えても悪ノリのような内容だが、コメディを期待して行くとその本格的な怖さに面喰らう。

 

呪いのビデオでその効果を発揮する貞子。DVDの普及したいまビデオデッキのある家庭なんて珍しいのに、どうやって彼女を登場させるのか疑問に思っていたが、そこのロジックはとても上手く処理していた。まず独り身の老人宅、続いてリサイクルショップ経由で若者の手に渡り、大学教授の研究室やお寺の事務所でも再生される。いかにもビデオデッキが置いてありそうな場所で物語を展開している。そして最後、ビデオはネットに拡散される。貞子というキャラクターを現代に復活させるにあたってとてもスマートな話運びであろう。

 

貞子登場までは丁寧にホラーシーンを積み重ねて観客の恐怖と絶望を掻き立てていく。ドッキリ的な怖さより、次第に自分の置かれた状況のまずさに気づき、迫り来る死を避けられないジワジワした怖さがとてもイヤらしい。グロテスクな描写もほとんどないため、ホラーに好奇心のある小学生も安心して楽しめるのである。ここが本作のとても"偉い"ポイントだ。しっかりり恐怖を与えつつ、それを全員が楽しめるエンタメに結晶させている。本格的ホラー映画の風格を漂わせているが伽倻子の登場は少々唐突で、お祓いのシーンからはほとんどギャグに突入する。夏実への過激なお祓いを止めようとした友里が勢い余って祈祷師にビンタされるシーンは笑ってしまった。さらになんの説明もなく幽霊のスペシャリスト的キャラクター、経蔵が友里たちの前に現れ、物語はいよいよ観客の期待していた世紀の対決へ全力疾走することになる。

 

経蔵のキャラクターは物語のリアリティラインを著しく下げており、前半のテイストが気に入っていた自分にはちょっと残念な部分もあったのだが、彼の登場は「いよいよバトルが始まります!みんな楽しんでね!」というメッセージにもとれる。観客もここからは笑って楽しめばいいのだと気楽に捉えられる。予告編にもある「バケモノにはバケモノぶつけんだよ!」は名ゼリフだ。貞子に呪われた友里は伽倻子の家に入って彼女に呪われ、伽倻子に呪われた鈴花は伽倻子の家で貞子の呪いのビデオを観る。経蔵いわく、ふたりの呪いを同時に身に受けることで両者の呪いは相殺されるらしい。んなわけねーだろとツッコミたくなるが、みんなよほど切羽詰まっているのかすんなり納得している。かなりメチャクチャで、かなり楽しい。

 

ラストは衝撃的だった。ふたりの呪いは相殺されることなく、貞子と伽倻子が空中でぶつかって大爆発が起きる。そのインパクトで経蔵は身体を真っ二つに割かれてわりとあっさり死ぬ。大爆発の後に現れたのはクトゥルフのような巨大タコ。一旦井戸に封印されたのち、フタを突き破って貞子と伽倻子の融合体が登場。キーンという貞子が出てきたときの耳鳴りの音とア"ア"ア"ア"ア"ア"という伽倻子のうめき声が同時にシアターに響き渡り、絶望の叫びと共にエンド。正直見ていてなにが起きたのか、自分が見ているのはなんの映画なのかわからなかった。最高だった。自分の期待していた「貞子vs伽倻子」はまさしくこういうテイストなんだよと。観客の求める全てを詰め込んだ白石監督に拍手を送りたい。シアター内が明るくなって観客みんながその驚愕のオチに爆笑したり、微妙な表情を見せたり、苦笑いしたり、様々なリアクションを見せているのが楽しかった。レイトショーに見るのがぴったりなB級感に溢れる秀作だった。