(旧)えいがのはなし

映画に対する感想を自由にまとめたものなのでネタバレを含むレビューがほとんどです。未見の方は注意してください!

10 クローバーフィールド•レーン / ネタバレ厳禁の監禁スリラー

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「10 クローバーフィールド•レーン」とはとても不思議なタイトルである。どうやら「クローバーフィールド」とは関係がありそうではあるけど…続編なのか、それともNYのあの惨劇と同時進行で起きた出来事なのかはわからない。あの巨大モンスターは出てくるのか、もしかしたら全く関係のない話なのかもしれない。その全貌がほとんどが謎に包まれたミステリアスな作品。US版のティザートレイラーが公開されて以降、全く情報をシャットアウトして鑑賞に挑んで正解だった。賛否両論分かれているようだな、自分はたくさんの驚きと興奮に満ちた映画だと思う。いつも通りネタバレ全開なのでこれからみようと考えているひとは注意してください。

 

恋人との喧嘩で家を飛び出したミシェルは、夜道を車で走っている最中に事故に遭い、気を失ってしまう。目を覚ますと地下室に監禁されている。脚は怪我をしていて、鎖で壁に繋がれている。脱出を試みるとやってきたのはハワードを名乗る大柄の男性。彼曰く「外の世界は謎の襲撃を受け、人類は滅亡した」らしい。外気は毒に満ちているから、絶対に地下室から出てはならないとのこと。怪しさ全開のおっさんに警戒感丸出しのミシェルだったが、もうひとり同居人がいることに気づく。彼の名はエメット。右腕を負傷している。元海軍で終末思想に取り憑かれたハワードの依頼を受け、地下シェルターを作り上げた張本人である。空に光る巨大な閃光を目の当たりにし、エメットもまた世界の滅亡を予感、この家に転がり込んできた。3人の奇妙な同居生活が始まる。

 

ここまでの断片的な情報から得られるのは(ハワードとミシェルを信じれば)どうやら「クローバーフィールド」との関連性はありそうだということ。しかもNYの事件とほぼ同時進行らしい。宇宙からの襲撃を受け、世界(規模はわからないけど少なくともアメリカ国内)は甚大な被害を受け、大混乱に陥っている。だからここにいる3人は運良く地下シェルターに逃げ込み、生存できているというわけ。しかしハワードがひたすら胡散臭いので信頼する気には全くならない。ミシェルとエメットには保護していることへの感謝を過剰に求める。助け出したわりには、かなり抑圧してくるし支配的だ。普通だったら平等に協力して生存しようとしそうなものだが、ハワードはあくまで二人をコントロールしようとする。疑問だらけで物語は進行するものの、逃げ出そうとしたミシェルが扉の外でケロイドまみれの女性が息耐えるのを目撃することで、ハワードが嘘をついているわけではなさそうだとわかる。外は危険らしい。

 

そして徐々にシェルターで過ごすことにも慣れた3人の生活は徐々に安定感を増してくる。一緒にテレビを見て時間をつぶしたり、パズルを解いてみたり。なんだかのんびりしてしてきたなと思ったら、こんどはハワードの秘密が発覚する。彼は娘と同年代の少女を監禁し、殺害するサイコパスだったのである。これまでミシェルとエメットにしてきた仕打ちや態度にも合点がいく。そうなると本当に襲撃を受けたのか、外は危険なままなのかも自信がなくなってくる。

 

ここらへんの塩梅がとてもうまい。観客は「クローバーフィールド」との関連性を探りながら本作をみている。だからハワードが単なるサイコパスだった場合、外の状況がどういったものであるのかはいよいよわからなってくる。彼が本当のことを言っているのか、それとも監禁の口実を作るために嘘をついているのか。ミシェルと一体化して謎に挑むドキドキが楽しい。

 

シェルターを脱出する作戦はハワードにあっさりバレてしまい、ミシェルをかばうため嘘をついたエメットは銃殺されてしまう。いよいよ仲間がいなくなったミシェル。ハワードは「俺たちで幸せな家族を作ろうな」と変態丸出しの発言。彼がミシェルを狙ったかどうかは不明だが、とにかく事故後に彼女を見た彼が監禁を思いつき、二人で暮らし続けることを計画していたのは事実のようである。 シェルターで太ったオッサンと暮らすよりカーテンで作った防御服で外に飛び出した方がマシだと決心したミシェルはハワードを襲い、命からがら地上に飛び出す。と、ここまでは密室スリラーのお手本のような展開。しかしここから予想もしない超展開を迎える(しかし日本版ポスターはこの核心部分をアッサリ載せてしまっている。なぜだ)

 

地上に逃げ出したミシェルが目の当たりにしたのは、奇妙な形をしたクリチャーたち。ハワードの予想はだいたい当たっていて、どうやらアメリカは宇宙人の襲撃を受けて大変なことになっていたらしい。そしてやはりこの作品が「クローバーフィールド」のアナザーストーリーであることも発覚する。地下室のサイコパスの魔の手から逃げたミシェルに追い打ちをかけるように現れた宇宙人。彼女からすれば災難以外の何物でもない。ここまできて死ぬわけにはいかないと必死に宇宙人や宇宙船と戦うミシェル。面白いのは、彼女があの手この手で手元にある道具を使って機転の効いた対応をすることである。地下シェルターでも服飾デザイナーのスキルを生かして防御服を裁縫していたが、こんども車の中にあるライター、新聞紙、ビール瓶を素材に爆弾を作って巨大な宇宙船をひとつ撃破している。このDIY精神がジャッキーチェンのアクションのようなパズル的楽しさをかきたてる。

 

「お前らこれが見たかったんだろ」と言わんばかりの取って付けたようなトンデモクライマックスには驚愕するが、その締めは新たな物語の幕開けを予感させる洒落たものになっている。宇宙人のアタックをかいくぐり、とにかく身の安全を確保できる場所にと車で旅立つミシェル。カーラジオからは二つの情報が流れる。ひとつは、米軍が宇宙人から奪還し、数多くの生存者がコロニーを形成している地域の情報。もうひとつは、米軍と宇宙人が激しい攻防を繰り広げ、戦闘経験や医療経験のある人間の助けを求める地域の緊急情報。ミシェルは一瞬戸惑いを見せるが、ギアを切り、車をバックさせると、戦闘地域へと進路を切り替える。一度は地獄を経験した彼女は、さらなる戦いの地へと足を踏み入れるのである。ミシェルの勇気ある決断が爽やかだが、同時に、このラストはNYの大惨事や地下室のミシェルなど、この世界では宇宙人の襲撃をめぐって様々なドラマが繰り広げられているんだという奥行きを感じさせるものになっている。宇宙人の襲撃で困っている人がまだ街に残されている。ラジオのニュースを通じてその報せを受けたたくさんの人々が団結してこれから壮絶なバトルを繰り広げるのだと思うと、胸が熱くなる。名前もなき一般人たちの共闘への予感という非常に燃えるラストと言える。

 

地下シェルターと世紀末(最後の審判)。核戦争の恐怖に怯えてきた過去を持ち、クリスチャンがとても多いアメリカらしいテーマであろう。絶望と希望がハイスピードで交差する最高のエンタテイメントであった。