(旧)えいがのはなし

映画に対する感想を自由にまとめたものなのでネタバレを含むレビューがほとんどです。未見の方は注意してください!

黄金のアデーレ 名画の帰還

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グスタフ•クリムトの名画「黄金のアデーレ」をめぐる歴史の悲哀を描いた作品。この絵画のモデルとなった女性を叔母にもち、戦時中にアメリカは亡命したオーストリア人女性が「黄金のアデーレ」はナチスによって略奪されたものであり、本来の所有権は自分にあるとしてオーストリア政府を訴えた事実に基づいている。

 

主演のヘレン•ミレンがさすがの味わい深さである。心のルーツは故郷のオーストリアにありながら、戦時中の悲しい記憶とトラウマのために、戻ることが叶わないアルトマン。長らくアメリカで暮らしていた彼女にとって故郷、そして温かい過去の記憶と繋がれる唯一の手段が「黄金のアデーレ」だったのだ。彼女もまた戦争によって引き裂かれ、不幸になった無数の市民のうちのひとりなのである。

 

ライアン•レイノルズも彼女をサポートする新米弁護士を好演。彼の存在は、過去とどう向き合っていくのか、というテーマに直結していく。先の大戦は70年経った現在においてもなお、被害者と加害者の双方が苦しまなければならないほど凄惨だったのだと改めて認識する。また、徐々にアルトマンと信頼関係を築いていくプロセスも非常に丁寧だった。

 

史実をたどればわかる通り、アルトマンは「黄金のアデーレ」と対面することになるのだが、その演出が白眉である。彼女がこの絵に対しどのような思いを抱いてきたのか、戦争によって何を失い、どう傷ついてきたのか。複雑な感情を目に見える形で美しく表現できるのは映画の特権だと感じる。こじんまりしているが非常に秀逸な作品。オススメだ。