テラフォーマーズ / "虫ケラ"たちの戦い
試写会の評判が非常に悪く、特に極端な言説で有名な前田有一が酷評したことである種の炎上にまで発展した「テラフォーマーズ」。GW映画の強力ラインナップに埋もれてしまい、批評的にも興行的にも不満足な結果に終わってしまった。しかし言われるほど酷い映画か?といえば、そうでもない。ただ、特別面白くなければ絶望するほどつまらなくもないという、なんとも微妙な映画になってしまった。邦画史上に燦然と輝く"クソ映画"「デビルマン」(自分は見てないので評価できないけど)のように多くの人の記憶にとどまるようなこともなく、いつのまにか忘れ去られてしまうんじゃないかという気もする。
映画全体の構成を俯瞰してみると結構メチャクチャである。各キャラの戦う理由は回想方式で語られるのだが、その挿入の仕方があまり練られていないように感じる。脚本と編集の問題だろう。燃えるはずのシーンで突然静かなトーンの回想が始まり、テンポを乱してしまう部分があった。それに終盤明かされるテラフォーマーズ計画の全容も全て小栗旬がベラベラ語ってしまう。セリフで説明を済ませてしまうのは邦画の悪いところだとよく槍玉に挙げられるが、まさしくそういう下手さが出てしまっていた。コミックの内容を2時間にスッキリまとめるには思い切った取捨選択が必要であろう。今回はうまくいかなかった。改めてマンガ原作映画を面白く作ることは難しいのだと感じる。
キャラクターはみんは立っていて魅力的だったんじゃないだろうか。特に山下智久と小池栄子は変身後の姿も含めて強烈なインパクトを残し、主演の伊藤英明より存在感があった。山下智久はバッタになってしまったラストの演技を筆頭に、結構頑張っていた。熱演である。小池栄子も世界観に馴染んでいた。カマキリ姿で戦う姿は美しく、カッコよかった。あっさり死んでしまって残念である。山田孝之演じるキャラも静かながら熱く燃えるハングリー精神を心の内に抱いていて、なかなか好感の持てる男。肝心の伊藤英明だが、武井咲との関係性が冒頭で示されながらもイマイチ共感できなかったし、なにより演技が浮いてた。もう少し別のアプローチをしてもよかったのでは?
映像面について。火星での場面がずっと続くが、正直スケール感がセコい。ふたつの宇宙船の距離もつかめない。広く見えないのに、そこでずっと話が展開されるせいで火星っぽくないし、茶色の大地に目が飽きてしまった。バトルシーンもカッコよさは所々あったけど、不満も多い。腰から上しか映さないカットが大半。身体全身でアクロバティックに戦う姿を見せてくれないからちょっと残念。予算の少なさをカバーするだけの演出の工夫が足りなかったんじゃないかな(あまり偉そうなことも言えないけど)。ゴキブリは気持ち悪くて最高。結構グロく死んでくれる。こういう容赦なさは三池監督らしさなんだろうか。あと冒頭のディストピア描写も良質。ブレードランナーをリスペクトしているようだ。予算もかかっていそうだが、もっとたくさんここでの場面を見てみたい気もする。
ストーリーはわりとシンプル。地球で"虫ケラ"だった連中が火星で"虫ケラ"退治に動員される。何も知らされずに。その命の重さは顧みられず、ただ道具のように実験に使われる。偉い奴らは自分たちで好き勝手やって何も教えてくれない。いま東京オリンピック誘致の裏金問題やそこから発展した日本の広告業界を牛耳る電通に対する批判、パナマ文書、舛添都知事の公費不正利用など、なにかと"権力"に関係した話題が多い。一般市民のあずかり知らぬところで何やら巨大な力が動いていて、陰で甘い汁を吸ってる連中がいる、なんていうと胡散臭い陰謀論者のようだけど、あながちウソでもないらしい。宇宙人の存在を隠して他国に先んじようとしたり、コッソリ犯罪者を火星に送り込んでゴキブリ退治したりとまではいかなくても、真実を隠して裏で得をしている権力者は現実の世界にもたくさんいる。たくさんのキャラクターが死んで火星のメンバーは最終的にふたりしか生き残らない本作だが、その終わりは物凄いエネルギーと希望に満ちている。彼らは火星での真実を公表した。世界中の人々がそれを知ることになる。そして、ふたりは自分たちを"虫ケラ"扱いした権力者たちを倒しに行く。"虫ケラ"だった彼らはこの時、本当のヒーローになるのである。興行的な失敗もあって続編は期待できないが、非常にこの先がきになる終わり方であった。そして、本作は"権力の脅威"という非常にタイムリーな話題も扱っていて、フィクションの世界においてそういう悪い奴らに一泡ふかせる快感を味わわせてくれる。底辺で這いつくばってる人間にだって尊厳はある。「バカにすんじゃねえ!」というガッツで突き進む彼らの姿に、自分たちもこういうエネルギーがあったらと考えてしまうのである。現実でも、恣意的な不平等が裁かれればいいのだけど。