(旧)えいがのはなし

映画に対する感想を自由にまとめたものなのでネタバレを含むレビューがほとんどです。未見の方は注意してください!

レヴェナント 蘇りし者 / ディカプリオ渾身の演技を観よ!

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 イニャリトゥ監督最新作。北米開拓初期に生きたひとりの男の半生を基に構築された究極のサバイバル日記である。

 まず特筆すべきはその映像美。どうやって撮ってるんだ?の連続。自然光を生かして映し出すアメリカの大自然は圧巻の一言。枯れ木と荒涼とした雪原が延々と広がる生を感じさせない土地。そこで繰り広げられるのは、限りなく泥臭く生にしがみつく男のサバイバルだ。黄昏時の冬山は非常に詩的だし、長回しの戦闘シーンは緊張感が途切れることがない。これけ大スクリーンに飲み込まれ、物語世界と一体化するような映画体感は初めてだ。おかげで見終わったあとかなりの疲労感がある。

 主人公のグラスがここまで激しく生きることに固執し、復讐に燃える姿を見ると、彼に対して道徳的価値判断を下すことは無意味に思えてくる。生き物として当然のことをしているのだ。見た目な人間でも中身は猿。その生命力に感動すると同時に、極限状態だとこうなっちゃうのかと怖くもなる。フィッツジェラルドは憎むべき悪だが、自分が同じ状況に置かれた時、果たして彼を糾弾できるような道徳的行動を示せるかというと、自信がない。彼もまた必死に生きようとしていたのだ。過酷な状況にあってエゴイズムをどれだけ抑制できるのだろう。たしかにフィッツジェラルドは人間として超えてはいけない一線に踏み込んでしまった。だけど、彼の言動も理解できなくはないのである。

 過酷な北米の冬山に生きる原住民に対しては神聖なものを感じた。白人たちがボロボロに追い込まれながら生きている環境を彼らは熟知していて、逞しく生き抜くことができる。白人vs原住民の文化論は安直だが、普段われわれの身近にない何かを彼らに見た気がする。

 あと壮絶なのはディカプリオの演技。バイソンの生肉を食べたり、馬の死体の中で寝たり。もうメチャクチャ。演技というよりイジメ。イニャリトゥがオスカーを人質に無理強いしたとしか思えない。というのは冗談にしても、ディカプリオ(そしてトムハーディはじめ脇を固める俳優陣)の役者魂がカッコいいところでもあった。

 しかし、総評をまとめるとそれほど好きな映画ではない。技術的には素晴らしい。だけど、ストーリーに起伏もなく正直先がきになるようなワクワクも足りないから、途中で飽きてしまった面は否定できない。見る価値はある。ただ、好きになれないなあというのが正直な感想だ。