(旧)えいがのはなし

映画に対する感想を自由にまとめたものなのでネタバレを含むレビューがほとんどです。未見の方は注意してください!

ズートピア / 本作のテーマについて

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 いまジワジワと口コミで人気が高まりつつあるディズニー最新作。自分も字幕版と吹き替え版をそれぞれ1回ずつ鑑賞。その感想をネタバレ込みで文章にまとめたい。

 まずはズートピアというタイトルからこの映画の大切な部分について考えてみる。当然ZooとUtopiaをもじっている。ズートピアは肉食動物と草食動物が共存する「動物の楽園」である。あくまでカッコつきであることが重要だ。じつは本当の意味での共存なんてここにはない。ジュディはウサギであるというだけで周囲に一人前の警察官であると認めてもらうハードルが高くなる。ニックもキツネであるというだけで差別を受け、心に大きな傷を負った結果、キツネらしく嘘をつきズルく生きる道を選ぶ。さらに、中盤で明らかになる通り、ズートピアの住人、特に草食動物は肉食動物に対して潜在的な差別心を抱いていた。ジュディが記者会見で問題発言をしたせいでその歪みは一気に他者への嫌悪となって噴出する。問題だらけ。結局私たちの暮らす現実の世界と全く変わらない。序盤のジュディの両親の保守的でウンザリするぐらい差別観丸出しの態度(それ以外は理想的すぎるぐらい子ども想いのいい夫婦)から感じていたこの世界に対する違和感はここに繋がる。

 この映画の凄いところは、そんな差別だらけの現実の責任を「悪者」だけに押し付けない。観客を含めたすべての人々に問いかける。「あなたも無自覚なだけで他人をステレオタイプにはめ、差別していないか?」と。自分を社会的なコードに当てはめることで楽な道を歩もうとしたニック、それから差別に立ち向かってきたジュディでさえ「肉食動物が凶暴化したのは野生の本能が目覚めたから」と無根拠な決めつけを行ってしまう。差別をする人に善人も悪人もない。すべての人に過ちを犯す可能性がある。そしてジュディのような無自覚で罪なき差別がいちばんタチが悪い。気づくきっかけがなければその問題は放置されてしまう。自分はジュディの記者会見の問題発言を特に疑いなく受け入れてしまった。冒頭の劇、研究員の発言等から巧みにミスリードしている面はあったものの、肉食動物は凶暴という「常識的な」考えに従って彼らを型にはめて見てしまっていた自分に気付いた時、心をグサリと刺された気がした。ここまでエグいテーマを提示してくるなんて正直ビックリ。多様性を認め、差別を根絶することを訴える映画なんて今どきゴマンとあるし、手垢のついた題材ではあるのに、この映画が全く新しく興味深いものになっているのは以上のような点によるものだろう。

 振り返ってみるとズートピアというタイトルはとても皮肉っぽいものだった。動物たちのユートピアは謳いつつ、その内実は正反対のものであった。この映画は夢に燃える女の子ジュディがその現実に直面し、前向きな気持ちと信念で新たな世界を切り開いていく物語なのだ。

 次の記事では本作で自分が楽しい、面白いと感じたズートピアの世界観やそのディテールについてまとめてみたい(気が向いたら)