(旧)えいがのはなし

映画に対する感想を自由にまとめたものなのでネタバレを含むレビューがほとんどです。未見の方は注意してください!

芸術の都パリを爆撃から救った感動の実話『パリよ、永遠に』

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舞台は第二次世界大戦も末期の1944年。戦況が悪化するナチス•ドイツは占領中の首都、パリの街中に爆弾を設置し、全てを破壊する計画を立てる。エッフェル塔、凱旋門、ルーブル美術館オペラ座。歴史的価値のある、フランス人が誇りにしてきた美しい街並みをことごとく破壊し、戦意を喪失させるのが目的だ。

 

しかし、現在も美しい都がその景観を保っている事実からわかる通り、計画は阻止された。じつは歴史の裏でパリを守るべく奔走した一人の外交官がいたのである。衝撃の実話を基にした「Diplomatie」という戯曲の映画化が本作である。

 

主人公はパリ爆撃を任された将軍と、彼を説得にやってきたスウェーデンの外交官。外交官はパリで生まれ育ち、この街の美しさ、かけがえのなさを知っていた。彼の熱のこもった説得を通して、初めは聞く耳を持たなかった将軍の態度も軟化していく。外交官らしい巧みな交渉によってパリの未来は徐々に開かれていく、その過程を丁寧に追うのが本作の醍醐味だ。

 

ほとんどが将軍の執務室となっているパリ中心部のホテルで展開されるため、内容自体は非常に地味である。フランス語で1時間半ぼそほぞおじさん二人で会話するのだから、ボーッとしてると眠くなってしまうのは事実。けど、外交官の熱意はかなり迫力があるし、それに押されてだんだんと考えを変えていく将軍の内面の変化の描写は繊細で流石のもの。

 

この映画を見て感じるのは、やはり戦争は狂気なのだということ。一人ひとりは家庭を持ち、人の命の大切さがわかっている普通の人間だ。外交官も将軍も中身は同じ。しかしながら、国や立場、職業の違いによって、人はいつの間にか人殺しに手を染め、「悪魔」になっていく。集団で動くことによって人間のヒステリックな感情が増幅され、ひとりではとてもしないようは残虐で狂った行動に走ってしまう。将軍もそのことに苦しめられている。組織の中にいると、気づけば自分の意思や哲学に反したあり得ない言動に走ってしまうのである。思い返せぞこのような狂気は戦争に限らない。カルト宗教、ブラック企業、学校でのイジメ。集団の力、それによって底からマグマのように湧き上がってくる狂気というものは、人間の社会的な営みに潜む悪魔なのかもしれない。

 

一方で、外交官の地道な説得によって変化してい将軍の姿を見て思うのは、そうした集団の狂気を止めるのもまた個人の力なのだということ。外交官の努力は言わずもがな、己の過ちに気づき、負の連鎖から抜け出すことができた将軍の勇気を信じるべきなのだということだ。一人ひとりの力が集まって狂気は生まれるけど、その狂気を止めるのも一人ひとり、個人の力、人間の力である。物語の終盤、連合軍にホテルから連行されてパリ市民の罵声を浴びる将軍の表情は、毅然とした厳しいものながらも、どこか晴れやかであった。まだまだ人間の勇気を信じてもいいのだという感動。パリ市民の罵声も、観客にとっては将軍を祝福する歓声にも聞こえてくる。

 

起伏の少ない単調な会話劇ながらも、物語の行く先が気になって全く飽きのこない作品だった。思わぬ良作が見れて非常に満足である。