(旧)えいがのはなし

映画に対する感想を自由にまとめたものなのでネタバレを含むレビューがほとんどです。未見の方は注意してください!

アノマリサ

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京アニメーションアワードフェスティバルでみました。なんと準備不足により字幕が準備できなかったということを窓口で知らされ、抜きうちリスニングテストを受けることに。払い戻しを受けた上で、タダで観れるから気にせず鑑賞することにしたのですが、責任者の謝罪もいい加減なもので、ヘラヘラしながら喋っていたのもいかがなものかと。この映画祭の運営の評判がよくないのも納得です。

 

愚痴はここら辺にして、映画の内容について考えたいと思います。字幕なしなので理解度は80パーセントぐらいです。勘違いがあったらすみません。

 

この映画はストップモーションによるアニメーションで作られています。主人公は社会的にもそこそこ成功し、名声もお金も家族もある中年男性のマイケル。しかし生きることにつまらなさを感じています。特に問題なのが、自分以外の人の顔と声が全部同じに感じられてしまうこと。男も、女も、子供も。みんなオッサンの顔と声にみえてしまいます。主人公もずっとそれに苦しめられてきた。これは人生になんの楽しみも見出せなくなってしまい、他人に対する興味がなくなってしまった彼の態度の表れといえるでしょう。現に彼は妻との関係もうまくいっていません。

 

しかし、そんな彼の目の前に「運命の女性」が現れます。名前はリサ。他と違う、彼女自身の声がしっかり聞こえてくるのです。顔も、女性そのもの。マイケルは、ついに自分の人生に光が差し込んだと言わんばかりに猛アプローチを仕掛けます。もともとマイケルのファンだと言っていたリサもそれに答えます。彼女はじぶんの顔にコンプレックスを抱いており、身体にあるアザを見せたがりません。繊細で楽しい人なのに、内面は傷ついている。だから殻に閉じこもりがちになっています。そういう内向きなところにいじらしさや愛くるしさを感じたのでしょうか。マイケルはどんどん彼女にハマっていきます。

 

マイケルはリサをホテルの自室に連れ込み、最終的にセックスまで持ち込みます。このシーンがすごい。人形劇なのにエロいんですね。お互いがお互いの気持ちを確かめ合うように肌に手を滑らせ、やがてひとつになっていく。とても官能的で、心動かされる場面です。太った中年同士のセックスをここまでロマンチックに描けるのは、ある意味、アニメーションだからでしょう。全く新しい可能性を感じました。

 

夜が明けてマイケルはリサに婚約を申し込みます。50過ぎたオッサンとは思えない情熱です。リサには妻と離婚することまで約束しました。なのに、マイケルはリサと朝食をとったときにアッサリ気持ちを翻します。彼女がグチャグチャ音を立てて食べることに苛立ちを覚えてしまい、幻滅したからです。そんな些細なことから、彼はリサを捨ててしまいます。なんとも後味の悪い終わり方です。

 

非常にこじらせたお話じゃないでしょうか?結局のところ人は独善的で、自分のことしか考えていない。特にロマンチストなマイケルは相手を思いやるなんてことはせず、自分の理想を相手に押し付けるだけ。思い通りにならなければ、もう終わりだと絶望してしまう。自分の理想にぴったり合う人間なんていないでしょう。関係をもつ上でガマンしなきゃいけない部分が必ず出てくる。それができないマイケルはどれだけ多くの人に会おうとも生きている甲斐がないのかもしれません。おそらくマイケルは一生自分を不幸に思って暮らすでしょう。なんとも意地悪な、大人のためのおとぎ話でした。