えいがのはなし

映画に対する感想を自由にまとめたものなのでネタバレを含むレビューがほとんどです。未見の方は注意してください!

64-ロクヨン-前編 / 警察という巨大組織に生きる人たち

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横山秀夫原作のサスペンス映画の前編。1週間しか存在しない昭和64年に起きた誘拐事件"ロクヨン"の真相が時効直前になって徐々に明かされていく…主人公は刑事時代にロクヨン事件の捜査をし、いまは広報部長の三上。彼を取り巻くパーソナルな問題も同時進行ながら、重厚な刑事ドラマを描く。非常に完成度の高い作品だった。前後編の切り方も続きがきになり絶妙。映画館を出た時に「これは良い映画を見たぞ!」と思える内容だった。以下詳しく触れていく。

いきなりストーリーの核心に迫ることになるが、主人公三上には多くの解決すべき問題が積み重なっている。長年身を尽くしてきた刑事部から広報部への異動、家出した娘との不仲、未解決の64事件、実名報道をめぐる記者クラブとの対立、キャリア官僚からのプレッシャー…彼の心中を思うと苦しくなる。ほとんど笑顔を見せないし、生きてて辛いだけなんじゃないかと思える。上からも下からも横からも責められ、家庭も常に緊張感が漂っていて心の休まる場がない。自分を守りいってしまうのも理解できる。

本作は前半で64事件の概要とその謎、後半でそれに並行しつつ記者クラブとの対立解消に奔走する三上の姿が描かれる。様々な問題が表出し、追い込まれ、極限状態まで達した時、彼は気づくのである。これまでの苦境は全て自分の態度が招いてきたこと。警察という巨大組織の中で生き抜くため、自分可愛さで守りに入っていた。妻と出会った当初の弱き人を助け正義を貫きたいという情熱はいつの間にか失われてしまっていた。自分を守ることに固執する人間に他人を守る資格なんてない。身を挺してみんなを助けなきゃならない。周りのみんな全員がNOを突きつけ、理解を示さなくても、それが正義だと思うなら絶対に譲らない。三上はこんがらがって抜け出せなくなりかけていた諸問題をそのパッションで強行突破する。最悪になってしまった記者クラブとの関係を、己のクビをかけ、すべてをさらけ出し、素直な気持ちで説得する。弱みも利己的な部分も全部みせて、和解を申し出る。このクライマックスの三上の演説は感動的だった。本当に熱い。これまで溜まっていた鬱憤がすべて弾き飛ばされる痛快さ。三上は自分で自分にかけていた呪縛から解放される。一対一の対話は道を開いた。次なる敵は"警察"という不気味な生き物である。