(旧)えいがのはなし

映画に対する感想を自由にまとめたものなのでネタバレを含むレビューがほとんどです。未見の方は注意してください!

SHE'S BEAUTIFUL WHEN SHE'S ANGRY / 力を合わせて世界を変える

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 男と女。どれだけ人間が高度な文明を築こうと変わらない差異であり、永遠の課題だ。いつの時代も人々は男女の問題に悩んできたし、ある意味、人類の歴史は男女の歴史と共に進行してきたとも言える。そしてある時、人々はひとつの発見をした。解剖学的な性差と社会的な性差は違うのだ。解剖学的な性差=セックスは生得的なものであるから変更が難しいけど、社会学的な性差=ジェンダーは権力的な作用によって生まれた概念であり、時に理不尽で大きな矛盾をはらんでいるものなのだ。特に家父長制、すなわち「男は仕事」「女は家庭」という古くからある考え方は、人権意識を共有し文明的な生活を送るようになった現代人にとって全肯定すべきものではなくなった。そういった疑問の芽生えは、60年代アメリカの公民権運動の中で、ウーマンリブ運動という形で社会を変える巨大ムーブメントとなった。やがてフェミニズムジェンダー学といった学問も一般的になる。「SHE'S BEAUTIFUL WHEN SHE'S ANGRY」はそんなウーマンリブ運動の始まりと発展を取材したドキュメンタリー映画である。

 まだまだ問題は山積だけど、2016年の日本ではある程度男女平等の価値観が浸透していると思う(もしかしたら社会に出るとこの認識は間違っているのかもしれないが、少なくとも大学に通っていて男女間の露骨な差別は感じたことがない)。そんな生活を送ってきたから、リーマンリブ運動以前に女性がどう扱われてきたかなんて想像もつかなかった。リーマンリブ運動よりずっと前、アメリカでは1920年、日本では1946年まで女性には選挙権がなかった。いま考えると信じられないけど、当時はそれが当たり前だったのだ。一国のリーダーを決めるにも、女性の考えは反映されなかった。正直アホらしくて想像したくもない。アメリカでは終戦直後、出版される本のうち女性が書いたものは1割にも満たなかったらしい。本を出版するにもある程度の学や社会的地位が要求されるから、どれだけ社会進出を許された女性が少なかったかがわかる。とんでもない世界だ。だけど、多くの人びとはその世界を信じていたし、なにも疑問を持たなかった。

 だけど、そういう世界は間違っていると考える人も徐々にではあるが増え始めていた。高学歴な女性の増加や生活水準の向上など理由は様々挙げられるだろう。ベティ•フリーダンの「新しい女性の創造」はそんな抑圧され社会に疑問を抱き始めていた女性たちの心に火をつけた。「女らしさ」は作られたものであること、そして女性は自立して社会進出すべきと説いた本書はベストセラーとなり、ウーマンリブ運動を突き動かす原動力となる。女性たちの社会的に抑圧され、溜め込んできた不満が一気に噴出したのだ。

 この映画はNOWやWITCHなどリーマンリブ運動で活躍した主要組織のメンバーたちの回想と資料映像を織り交ぜ、この運動がいかに進展し、社会に影響を及ぼしたかを描く。彼女たちの運動はなかなか理解されなかった。男性からだけでなく、女性からも多くの批判があった。「ワガママな女」なんてレッテルを貼られたりもした。運動に投じた女性たちは決して権力を支配したり、男女の間に決定的な楔を打ち込みたかったわけでもない。実際、男性と結婚したり子どもを持った活動家もたくさんいる。彼女たちはこの間違っている世界にNOを突きつけ、より良い未来を目指しただけだ。怒れる人々の闘争は非常にエネルギッシュで、カッコよく、そして美しい。時には間違いも犯した。振り返ってみると少々過激すぎた活動もある。だけど、それでもやっぱり、50年前の女性のあり方と現代の女性のあり方を考えると、この運動には価値があった。ウーマンリブ運動がなかったら、それはないにしても、動き出すのが遅かったら、この世の中はもっと暗くつまらないものだったかもしれない。どうしても成されなければならないものだったのだ。まだまだ宿題はたくさん残っている。時間はたくさんかかるかもしれないけど、一つひとつ真剣に向き合っていけば、いつかは全て解決されると信じたい。「SHE'S ANGRY」なんて状況がなくなればいい。