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えいがのはなし

映画に対する感想を自由にまとめたものなのでネタバレを含むレビューがほとんどです。未見の方は注意してください!

ヒーローマニア -生活- / 「キックアス」とは異なるヒーローへのアプローチ

マンガ原作 青春 アクション ヒーロー ヒーローマニア 生活
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 フリーターニート、サラリーマン、女子高生。パッとしない普通の人々がヒーローとして活動したら?「キックアス」のカルト的人気とその大成功を受けて多くのフォロワー的作品が製作された。「ヒーローマニア -生活-」もその中のひとつと言えるだろう。原作マンガの「生活」はコミック版キックアスより前の作品なので正確にはキックアスフォロワーとは言えないが、本作の演出を見る限り「キックアス」からは多くの影響を受け、意識しているようだ。

 この映画では4人が出会い、ヒーローユニットとして絆を深める過程はわりと飛ばし気味で描かれる。彼らは小さな悪事が見過ごされ、不良や暴走族が好き勝手できる堂堂市の現状を憂いている。加えて中津と土志田は"弱いものイジメ"がまかり通ることに強い不満を抱く。そういうことをしている連中は罰されるべきだという単純な動機は4人に共通しているが、特に中津と土志田はマッチョな強者に対するルサンチマン、それからパッとしない現実の生活からの逃避と憂さ晴らしというモチベーションがあることも付け加えておきたい。ちなみに最初に4人が橋の下に集結するシーンのアクションはキックアスの影響を強く受けていると思う。おそらくヒットガールがキックアスと初対面するシーンを参考にしている。土志田登場の演出からbanana spilitsに類似したポップな音楽まで、同じ匂いを感じさせる要素が多い。

 中盤以降の展開は全くの予想外だった。自警団は市民の支持を受けて警備会社化するのである。各々が私利私欲に走り、4人の友情は解体されていく。ただひとり中津だけがともしび総合警備保障の不自然さを疑う。どんどん仲間は減っていく。ここは世界観のマンガっぽさもあり非常に気味が悪い。20世紀少年のともだちのイメージだ。全体主義的な怖さと威圧感が居心地を悪くさせる。

 さらに事態は悪化する。おじさんが死ぬのだ。ここで残された3人は気づく。やっぱりこの会社はおかしいと。全ての元凶は元ホームレスで社長の宇野にあったのだ。「弱い者いじめを止めなくては」という意思で始まった自警団は、いつのまにか自分たちが一番嫌悪していたことを嬉々としてこなしていた。本末転倒である。恐怖で他者を抑圧するような人間をヒーローと呼べるだろうか?そんなはずはない。再び団結する3人のヒーローたち。楽しかった頃の思い出を胸に、おじさんの無念を晴らすため、社長を倒す。余談だが船越英一郎の宇野の演技は絶妙にリアリティラインを下げた楽しいものだった。鼻声なのが気になったけど。屋上でダンスするシーンは意味不明で彼の得体の知れなさが伝わってくる。

 ここからラストにかけてはかなり不満である。社長を倒し、彼の手下も片付け、最後に彼らを待ち構えていたのは謎の通り魔。その正体は商店街の障害者だったのだが、彼女が登場する意味がイマイチ理解できていない。ここですごくテンポが悪くなった印象。もともと話の流れ自体はあまり整理されていないのだが、ここは特に内容が飲み込みづらく感じた。南海キャンディーズしずちゃんの演技は最高である。気持ち悪いしフツーにトラウマものだ。このキャラへの嫌悪感だけで記事がもう一本書けるレベル。とにかくラストの良さはしずちゃんぐらいのもので、観ていて早く終われと思ってしまった。

 ラスト、中津たちは日常へ戻るのだが、冒頭のコンビニのシーンと比較して彼の成長が描かれる。かつては脳内の妄想だけで解決していた悪者退治を、言葉で、誠実に行うのである。実際に行動に移せることが大事なのだ。脳内の妄想では暴力で解決していたし、実際に自警団として活躍していた時も拳と見せしめで解決していた。でも中津はもうそんなことはしない。一人ひとりに言葉でNOを突きつける。これでこそ現実的なヒーローなのだ。暴力で解決しようとした結果、おじさんは死んだ。それじゃダメなんだ。何の解決にもならない。心に正義感を宿し情熱を持ったヒーローが徐々にでも増えていけば、世の中は良くなるのかもしれない。

 「ヒーローマニア」と「キックアス」の最も大きな違いは暴力の扱い方じゃないだろうか。「キックアス」は燻っていたオタクが暴力で自分の不満を爆発させる、そのカタルシスが重要だ。自分の壁を乗り越えるのは、強い信念と物理的な力なのである。悪事を働く者たちを暴力で成敗する。それはそれで楽しい。自分も大好きな映画だ。だけど「ヒーローマニア」は別の目線からヒーローを見つめる。序盤の「キックアス」を意識した痛快なアクションシーンは、中盤以降トーンを変える。ひたすらに痛々しい。人が傷つく。おじさんは孫の顔を見る前に腹から血を流して死んだ。現実に暴力で他者を裁くことの恐ろしさが描かれる。ジェームズガン監督の「スーパー!」に近いテイストである。「スーパー!」でどれだけ血に塗れようと自分の中の幸せを見出す主人公に宗教的含意が込められていたが、「ヒーローマニア」は「キックアス」や「スーパー!」よりもさらに現実に寄り添っていたと思う。やっぱり暴力は他人を傷つける。絶対にこの世界は間違ってる、変えなきゃダメだという信念があるのなら、自警団なんて仰々しいことせず小さいことから始めればいいじゃないか。コンビニの態度の悪い客を注意するだけだって十分正義の実現なんだ。人を殴ったり蹴ったりという短絡的な手段を捨てた時点で、中津はヒーローとして一皮むけたんだと思う。

 終電逃してミッドナイトショーで見た作品だから、ところどころ集中できず見落としてるポイントはあるだろう。ただ、テンポの悪さや燃えそうな場面を散りばめながら活かして切れていない演出には不満も多い。なので見返すということはないかな。荒削りではあるものの輝く要素も多かっただけに、ところどころ引っかかってしまったのが残念である。