(旧)えいがのはなし

映画に対する感想を自由にまとめたものなのでネタバレを含むレビューがほとんどです。未見の方は注意してください!

ちはやふる 上の句 / 仲間と共に戦うということ

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 ちはやふるの上の句と下の句を鑑賞。どちらも素晴らしい青春映画だった。2作は密接に繋がっているのでまとめて語りたいところではあるが、思いつくままに感想を書きたいので、あえてバラバラに記事を作る。したがって本稿では上の句について。次稿では下の句の感想を語った上で、上下句の総論をまとめたいと思う。

 上の句の感想を一言で表せば、とにかく燃えた。千早、太一、新の3人の甘酸っぱい関係(千早の新に対する想い、太一の片思い)、かるた部の友情と絆、勝利へのロジック。すべてのラインが同時進行しクライマックスで合流することでとんでもない面白さになっていた。

 まず3人の関係は、それぞれがかるたを始めた理由、そしていまもなおかるたを頑張る動機になっている。自分が好きなのは太一の千早への片思い。千早が新にしか関心を向けないだけに苦しく、切なく、甘酸っぱい。この成分だけ抽出すればありきたりなのだが、しっかり終盤の戦いで回収され、かるたというメインテーマと繋がるから素晴らしい。これは勝利へのロジックを語るときにまた触れる。新も登場機会は少ないものの、かなりの存在感。下の句への下ごしらえとして、しっかり彼を印象付けている。

 かるた部の友情と絆は上下句合わせて物語の骨子を成す最重要ポイントである。かるたが好きで好きでたまらない主人公の千早。そんな彼女の熱意に動かされ、次第にかるたの魅力にハマっていくのが瑞沢高校かるた部の面々だ。

 肉まん君はお笑い役に徹しながら、チームの主戦力として大切な存在だ。彼はかるたに対する熱意も、その実力も部内ではいちばんブレが少ない、というかブレない。ただおちゃらけるだけでは存在感が薄れてしまうが、チームの柱としての役割があるおかげで絶対に外せないメンバーになっている。非常に上手い配役だ。

 特筆すべきは机くんであろう。実質上の句の主役である。嫌々ながら入部し、かるたの面白さとチームで戦うことの素晴らしさを体感する机くん。しかし、大会で戦い、初めて知る自分の弱さ。勝負でひとり置きざりにされ、チームの役に立てない無力感、絶望。彼の心の痛みは嫌なぐらい伝わってくる。他人よりプライドも高いから、それだけ挫折した時の傷も大きい。そんな彼の復活は最高にエモーショナルで熱い上の句のクライマックスとなる。彼が自分はチームに不要なんかじゃない、仲間と共に最後まで戦いに望むことこそ大切なのだと気づくプロセスがとても良い。ヘソを曲げて勝負を放棄した机くんに向かって、千早がかるたを飛ばすのである。しかも試合の流れの中でさりげなく。無言の「がんばれ。最後まで戦え。私たちがついてる」というメッセージ。彼が高いプライドを持っていることを理解してのプレーだ。自分はこの場面で瑞沢高校かるた部の絆の強さを確信した。この過程は、次に触れる勝利へのロジックを導きていく。

 机くんの復活に表現されているのは、千早の熱意に突き動かされ、常に一緒に戦ってきた瑞沢高校かるた部の絆の強さである。スポーツ青春モノ、団体スポーツを扱う物語の醍醐味がここに詰まっている。仲間を信じ、共に戦うことの素晴らしさをこれでもかと見せてくる。全員が心を通わせて初めて勝てるのだという勝利へのロジックが丁寧に示されている。これで燃えないはずがない。最後はこれが太一の恋愛感情にリンクする。これまで千早への恋心を隠し、苦しんできた彼は、どうしても「ちはやふる〜」の札に固執して勝てないでいた。その困難を彼は自分の熱意で乗り越える。「取る取らないか迷うんじゃない。そもそも取りに行かないと勝てないじゃないか」と気づくのだ。これも熱い。かるたというスポーツの特性に恋愛要素を重ねる巧さにひたすら感心した。決着のつけ方も良い。あえて、相手のお手つきで試合を終わらせる。太一の心の持ち方がベストな結果を招いたのであって、まだ自分で札を取れたわけではないのである。不透明な締め方ではあるが、千早との恋愛に決着がついてない以上、続編への引きとしても良い終わらせ方ではないだろうか。

 ここまで書いて気付くのは、全く千早について触れていないということ。上の句において、千早に大きな変化はないのだ。千早の影響を受けて戦いに加わる人や新たに決意を固める人が描かれるのであって、その中心にいる彼女は物語のキッカケにはなるけどメインで語られることはない。千早はみんなにいろんなものを与えてきた。それが回りまわって自分に返ってくるのは下の句でのお話だ。だから本稿の冒頭で「密接につながっている」と言った。下の句は上の句へのアンサーになっているのである。続きは次の記事で。